「飼い葉桶の幼子(おさなご)に現わされた平和」

      『横浜教区報』2023年1月号巻頭言より

主教イグナシオ入江 修

クリスマス・メッセージ

「かいばおけの干し草に 身をゆだねる救い主」で始まる聖歌七十五番の詞(七十六番も同じ詞)は、その飼い葉桶にすやすや眠る幼子、そこに神の国が訪れたことを告げています。また、祈祷書の詩編第一三一編二節には、「心静かにわたしは憩う、母の胸に安らぐ幼子のように」とあって、そこに真の憩いがうたわれています。


いずれもそこにあるのは、いっさい信頼しきって自らを委ねている姿であり、そこに生まれた平和です。
生まれたての幼子は触れたら壊れてしまいそうで、自らは何もできません。ただ泣くことと眠ること、そしてお乳を吸うことだけです。

神さまは、罪に捕らわれた私たち人類を死から命に救うべく救い主をお与えくださいました。それは、人の住む場所からも弾き出された家畜小屋でした。そこに、まったく無防備な状態、弱さの極みとなるお姿で、幼子として救い主を世に遣わされたのです。


それは、何という不思議、また驚きでしょう。放っておかれれば、もはや生きていくことができない、そんな危うい状況の中に、神さまはご自分の愛する独り子を与えてくださったのです。


それから二千年以上が過ぎた現代においても、人間は相も変わらず強さを求め、力を求めて互いに争い合っています。平和を作り出すために力を持つことを求め、互いに張り合い威嚇し続けています。やったらやり返されるからめておくという抑止力に頼って微妙な力関係の中で平和を保とうと血眼になっています。


そんな世界に、そこにいる私たちに、飼い葉桶に眠る幼子は「平和とは何か」を突き付けています。それは、力による恐れによって保たれる平和ではなく、弱さの中に生まれる平和です。そして幼子は、私たちに迫ります。「あなたがたも小さくなりなさい」と。


小さく弱くなることによってもたらされる平和を、幼子となられた御子は、その地上におけるご生涯をもって証され、十字架を背負われてゴルゴタの丘に向かわれたのです。


すやすや眠る弱く小さな幼子を見て、心をざわつかせる人はいないと思います。むしろ、自分の心のかたくななよろいが、その幼子によって脱がされていくのを感じるのではないでしょうか。


自らは何もできない幼子だからこそ、私たちが知らず知らずの内に身構え、自分の中に着けてしまっているよろいを外してくれるのではないかと思います。


力を持つことは相手を威嚇します。それは相手への圧力になり、不安を煽ります。しかし弱さは、そうした圧力や不安から相手を解放します。


そしてもし、私たち人間が力を持つことがあるとしたら、それは神さまから与えられた聖なる力です。それはただ、神さまの栄光を現すために用いられる力であって、父なる神さまの御心に死に至るまで、従順であられたイエスさまが現わされた強さです。


飼い葉桶に眠っておられる救い主、そこに私たちは神の国のおとずれによる平和を見出し、それを力強く証しして参りたいと思うのです。


クリスマスおめでとうございます!

旧約聖書 イザヤ書 52:7-10

7いかに美しいことか
山々を行き巡り、良い知らせを伝える者の足は。
彼は平和を告げ、恵みの良い知らせを伝え
救いを告げ
あなたの神は王となられた、と
シオンに向かって呼ばわる。
8その声に、あなたの見張りは声をあげ
皆共に、喜び歌う。
彼らは目の当たりに見る
主がシオンに帰られるのを。
9歓声をあげ、共に喜び歌え、エルサレムの廃虚よ。
主はその民を慰め、エルサレムを贖われた。
10主は聖なる御腕の力を
国々の民の目にあらわにされた。
地の果てまで、すべての人が
わたしたちの神の救いを仰ぐ。

詩編 98:1-5

1 新しい歌を主に歌え。神は不思議なみ業を行われた || その偉大な右手、尊いみ腕は救いの 力
2 主は救いを示し || 諸国の民に正義を 現された
3 慈しみとまことをもって、イスラエルの家に 心を留められる || 遠く地の果てまで、すべての者が神の救いを見た
4 世界よ、主に向かって 喜びの声を上げ || 声を放ち賛美の歌で神をほめよ
5 竪琴を奏でて主をたたえ || その調べに合わせてほめ歌え

使徒書 ヘブライ人への手紙 1:1-12

1神は、かつて預言者たちによって、多くのかたちで、また多くのしかたで先祖に語られたが、 2この終わりの時代には、御子によってわたしたちに語られました。神は、この御子を万物の相続者と定め、また、御子によって世界を創造されました。 3御子は、神の栄光の反映であり、神の本質の完全な現れであって、万物を御自分の力ある言葉によって支えておられますが、人々の罪を清められた後、天の高い所におられる大いなる方の右の座にお着きになりました。 4御子は、天使たちより優れた者となられました。天使たちの名より優れた名を受け継がれたからです。
5いったい神は、かつて天使のだれに、
「あなたはわたしの子、
わたしは今日、あなたを産んだ」
と言われ、更にまた、
「わたしは彼の父となり、
彼はわたしの子となる」
と言われたでしょうか。 6更にまた、神はその長子をこの世界に送るとき、
「神の天使たちは皆、彼を礼拝せよ」
と言われました。 7また、天使たちに関しては、
「神は、その天使たちを風とし、
御自分に仕える者たちを燃える炎とする」
と言われ、 8一方、御子に向かっては、こう言われました。
「神よ、あなたの玉座は永遠に続き、
また、公正の笏が御国の笏である。
9あなたは義を愛し、不法を憎んだ。
それゆえ、神よ、あなたの神は、喜びの油を、
あなたの仲間に注ぐよりも多く、あなたに注いだ。」
10また、こうも言われています。
「主よ、あなたは初めに大地の基を据えた。
もろもろの天は、あなたの手の業である。
11これらのものは、やがて滅びる。
だが、あなたはいつまでも生きている。
すべてのものは、衣のように古び廃れる。
12あなたが外套のように巻くと、
これらのものは、衣のように変わってしまう。
しかし、あなたは変わることなく、
あなたの年は尽きることがない。」

福音書 ルカによる福音書 2:1-20


1そのころ、皇帝アウグストゥスから全領土の住民に、登録をせよとの勅令が出た。 2これは、キリニウスがシリア州の総督であったときに行われた最初の住民登録である。 3人々は皆、登録するためにおのおの自分の町へ旅立った。 4ヨセフもダビデの家に属し、その血筋であったので、ガリラヤの町ナザレから、ユダヤのベツレヘムというダビデの町へ上って行った。 5身ごもっていた、いいなずけのマリアと一緒に登録するためである。 6ところが、彼らがベツレヘムにいるうちに、マリアは月が満ちて、 7初めての子を産み、布にくるんで飼い葉桶に寝かせた。宿屋には彼らの泊まる場所がなかったからである。

8その地方で羊飼いたちが野宿をしながら、夜通し羊の群れの番をしていた。 9すると、主の天使が近づき、主の栄光が周りを照らしたので、彼らは非常に恐れた。 10天使は言った。「恐れるな。わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。 11今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである。 12あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶の中に寝ている乳飲み子を見つけるであろう。これがあなたがたへのしるしである。」 13すると、突然、この天使に天の大軍が加わり、神を賛美して言った。
14「いと高きところには栄光、神にあれ、
地には平和、御心に適う人にあれ。」
15天使たちが離れて天に去ったとき、羊飼いたちは、「さあ、ベツレヘムへ行こう。主が知らせてくださったその出来事を見ようではないか」と話し合った。 16そして急いで行って、マリアとヨセフ、また飼い葉桶に寝かせてある乳飲み子を探し当てた。 17その光景を見て、羊飼いたちは、この幼子について天使が話してくれたことを人々に知らせた。 18聞いた者は皆、羊飼いたちの話を不思議に思った。 19しかし、マリアはこれらの出来事をすべて心に納めて、思い巡らしていた。 20羊飼いたちは、見聞きしたことがすべて天使の話したとおりだったので、神をあがめ、賛美しながら帰って行った。

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