「救い主を迎える人生逆転」

司祭テモテ姜 暁俊
小田原聖十字教会牧師
秦野聖ルカ教会管理牧師

降臨節第4主日

私が千葉に留学していた時、日本人の友達が一人いました。韓国ドラマが大好きな友達で、ある日その友達が私に聞きました。「ねえ、ドラマの名前を思い出せないけど、女性は普通の人で、男性は財閥の後継者で二人が恋に落ちるドラマのタイトル何だったっけ?」私はこのように答えました。「そんな説明では分からないよ、韓国ドラマは全部そうだから。」

平凡な人が社会的エリートと付き合う内容はシンデレラストーリーと呼ばれ、いつも人気がある題材です。それほど、人生逆転という内容は人々の興味を引くのでしょう。

 ルカによる福音書第一章で私たちはそのような人生逆転の場面に遭遇した女性に出会います。彼女の名はマリア、ガリラヤのナザレという田舎出身で十三歳程度の少女でした。十三歳と言っても当時の十三歳は結婚するのが普通の年齢でした。彼女もヨセフという男性と婚約状態でありました。当時のユダヤ文化では婚約関係も実質的に夫婦と見なされていて、婚約して一年後ぐらいに正式に結婚式を挙げて一緒に住むことになっていました。彼女は婚約して正式に結婚する日を待っている状態でありましたが、そんな彼女に天使が現れ、彼女に男の子が生まれることを告げます。しかも生まれてくる子は普通の子どもではありません。天使の言葉によると「ダビデの王座で永遠に支配する者」です。田舎の平凡な娘だった彼女にダビデの王座を継ぐ新しい王の母になる機会が与えられました。「天使の言葉通り、大きな恵みですね。」と言いたいところですが、実は彼女の状況から考えると天使のお告げはあまり良い知らせではありません。ユダヤ人の律法では結婚前に身ごもった女性は石打ち刑で殺されます。結婚する前に彼女が身ごもるということは命の危機が迫るという意味でもあるのです。

しかし、そのような状況の中でも彼女が示した反応は驚くべきものでした。「私は主のはしためです。お言葉どおり、この身になりますように。」マリアのこの言葉は素晴らしい信仰を含んでいます。天使のお告げ通りになったら自分には命の危機が訪れるかも知れません。それでも神様のご計画なら受け入れると、マリアはそのように告白して従順の模範を示しています。主に対する無限の信頼を持って、自分に危険が迫って来ても主のお言葉通りになりますようにと告白する信仰、その信仰のゆえにマリアは神様の子の母として選ばれました。

神学者たちはマリアを、教会を象徴する人物として理解します。マリアに神のみ子が宿るように、私たちの中にも神のみ子イエス・キリストが宿ります。しかし、それは私たちが神様に対する信頼を持っているときに可能です。

 たとえ、今は何の光も見出すことができなくても、これからどんな苦難が待っているのか分からない厳しい状況であっても、神様の御心通りになりますようにという強い信頼を持って神様の恵みを受け入れるとき、平凡な私たちは、神様のみ子、救い主を迎える光栄に与ることができます。神様への信頼を持って、救い主を迎える準備をしましょう。

(『横浜教区報』2023年12月号巻頭言より)

以下の旧約聖書、使徒書、福音書は『聖書 新共同訳』より引用しました。
©︎共同訳聖書実行委員会
Executive Committee of The Common Bible Translation
©︎日本聖書協会
Japan Bible Society , Tokyo 1987,1988

旧約聖書 サムエル記 下 7:4,8-16

4しかし、その夜、ナタンに臨んだ主の言葉は次のとおりであった。

8わたしの僕ダビデに告げよ。万軍の主はこう言われる。わたしは牧場の羊の群れの後ろからあなたを取って、わたしの民イスラエルの指導者にした。 9あなたがどこに行こうとも、わたしは共にいて、あなたの行く手から敵をことごとく断ち、地上の大いなる者に並ぶ名声を与えよう。 10わたしの民イスラエルには一つの所を定め、彼らをそこに植え付ける。民はそこに住み着いて、もはや、おののくことはなく、昔のように不正を行う者に圧迫されることもない。 11わたしの民イスラエルの上に士師を立てたころからの敵をわたしがすべて退けて、あなたに安らぎを与える。主はあなたに告げる。主があなたのために家を興す。 12あなたが生涯を終え、先祖と共に眠るとき、あなたの身から出る子孫に跡を継がせ、その王国を揺るぎないものとする。 13この者がわたしの名のために家を建て、わたしは彼の王国の王座をとこしえに堅く据える。 14わたしは彼の父となり、彼はわたしの子となる。彼が過ちを犯すときは、人間の杖、人の子らの鞭をもって彼を懲らしめよう。 15わたしは慈しみを彼から取り去りはしない。あなたの前から退けたサウルから慈しみを取り去ったが、そのようなことはしない。 16あなたの家、あなたの王国は、あなたの行く手にとこしえに続き、あなたの王座はとこしえに堅く据えられる。」

詩編 89:1-4,19-26

1 主よ、あなたの慈しみをとこしえに歌い‖ わたしの口であなたのまことを世々に告げよう
2 その慈しみは変わることなく‖ そのまことは天に堅く据えられた
3 あなたは仰せになった、「わたしの選んだ者と契約を結び‖ 僕ダビデに誓って言った
4 『とこしえにお前の子孫を堅く立てる‖ お前の王座は揺るぎなく、世々に及ぶ』」

19 神はかつて幻のうちに語り、あなたの忠実な者に仰せになった‖ 

  「わたしは一人の勇士に力を与え、民の中から選ばれた者を高く上げた
20 僕ダビデを選び‖ 尊い油を注いだ
21 わたしの手はいつも彼とともにあり‖ わたしの腕は彼を強める
22 敵が彼を欺くことはなく‖ 悪人が彼を悩ますこともない
23 わたしは敵を彼の前で砕き‖ 彼を憎む者を打ち倒す
24 慈しみとまことは彼とともにあり‖ 彼はわたしの名によって勝利を得る
25 わたしは彼の手を海の上に‖ その右の手を川にまで広げる
26 彼はわたしに呼びかける‖ 『わたしの父、わたしの神、わたしの救い岩』

使徒書 ローマの信徒への手紙 16:25-27

25神は、わたしの福音すなわちイエス・キリストについての宣教によって、あなたがたを強めることがおできになります。この福音は、世々にわたって隠されていた、秘められた計画を啓示するものです。 26その計画は今や現されて、永遠の神の命令のままに、預言者たちの書き物を通して、信仰による従順に導くため、すべての異邦人に知られるようになりました。 27この知恵ある唯一の神に、イエス・キリストを通して栄光が世々限りなくありますように、アーメン。

福音書 ルカによる福音書 1:26-38

26六か月目に、天使ガブリエルは、ナザレというガリラヤの町に神から遣わされた。 27ダビデ家のヨセフという人のいいなずけであるおとめのところに遣わされたのである。そのおとめの名はマリアといった。 28天使は、彼女のところに来て言った。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」 29マリアはこの言葉に戸惑い、いったいこの挨拶は何のことかと考え込んだ。 30すると、天使は言った。「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。 31あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい。 32その子は偉大な人になり、いと高き方の子と言われる。神である主は、彼に父ダビデの王座をくださる。 33彼は永遠にヤコブの家を治め、その支配は終わることがない。」 34マリアは天使に言った。「どうして、そのようなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに。」 35天使は答えた。「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。 36あなたの親類のエリサベトも、年をとっているが、男の子を身ごもっている。不妊の女と言われていたのに、もう六か月になっている。 37神にできないことは何一つない。」 38マリアは言った。「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」そこで、天使は去って行った。

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