「好機到来の期節」

司祭パウロ窪田真人
沼津聖ヨハネ教会牧師
伊豆聖マリヤ教会管理牧師

大斎節第1主日

イエスさまの洗礼は、新たな出エジプトの始まりを意味します。今、神はご自分の民を、ファラオの奴隷からではなく、罪と死の奴隷から導こうとされています。旧約聖書の出エジプト記に記される、物語とは、ドラマのようなカタルシスを得る物語ではなく、目的を達成するまでの過程であり、奴隷という肉体的、精神的な束縛から抜け出して栄光に到達するまでの間の導きなのです。このことはわたしたちの信仰生活においても同様で、一生涯という旅路を歩む中、時に困難な旅に直面することもままあることでしょう。

大斎節は、俗にいう何を我慢するとかといった、義務が伴うものではありません。むしろ、好機です。わたしたちが自分自身について何を信じているのか、そして神がわたしたちについて何を考えておられるのかを熟成させ、吟味し、発展させる機会です。

奴隷に戻ろうとするわたしたちへの誘惑(イスラエルの民がエジプトに戻ろうとした誘惑に似ている)は、神の善意と、神からのわたしたちへの限りない愛を信頼しないことから生じているように思います。神はご自身の愛する子どもたちを、ただ慈しむだけではありません。主イエスに語られた言葉を、わたしたち現代に生きる人びとへも語りかけてくださいます。

「あなたは私の愛する子、私の心に適う者」(マルコ1:11)。
イエスさまの御業によって、わたしたちは神の子どもと呼ばれる特権を与えられているのです(ヨハネ1:12、ローマ8:16参照)。

これからの主日を除く6週間、つまり40日間は、罰が伴ったり、罰を与えたり、自分を責めたり、責任転嫁をする、そして、本当に値するものを積極的に探し出したり、佳い大斎節を味わおうと努力したりするためのものではありません。わたしたちが神の愛する息子または娘であるという確信に迫り、神の真実を聞き、見ることに、特別に集中するための好機なのです。

その真実に触れることができるように、福音書はわたしたちに豊かな実りを与えます。マルコ福音書記者が教えていることの一つに、荒れ野とは、神に敵対する勢力と神の勢力が共存する場所であり、わたしたちの生きる日常生活の場もまさに同じような状況にあるということです。そして、イエスさまがその場所で誘惑に遭い試みられたということは、同じ荒れ野で生きるわたしたちを励まし、慰めを与え、奴隷に戻ろうとするわたしたちへ、癒しを与え、正しい方向へと道標を掲げ続けてくださっているということではないでしょうか。悪魔や野獣ばかりに目を向けるのではなく、共存している天使の存在に気がついた時、肉体的にも精神的にもわたしたちの心と体は、罪と死の奴隷から解放へと向かうきっかけを得るのです。「大斎を失うものは一年を失う」という決まり文句があります。この大斎節、イエスさまが共におられることを確信し、荒れ野でのイエスさまのお姿を想起して、霊の導きを妨げるものを除いてまいりましょう。祈りと黙想を味わい、この好機を豊かなものとしていきたいと願います。

(『横浜教区報』2024年2月号巻頭言より)

以下の旧約聖書、使徒書、福音書は『聖書 新共同訳』より引用しました。
©︎共同訳聖書実行委員会
Executive Committee of The Common Bible Translation
©︎日本聖書協会
Japan Bible Society , Tokyo 1987,1988

旧約聖書 創世記9:8-17

8神はノアと彼の息子たちに言われた。
9「わたしは、あなたたちと、そして後に続く子孫と、契約を立てる。 10あなたたちと共にいるすべての生き物、またあなたたちと共にいる鳥や家畜や地のすべての獣など、箱舟から出たすべてのもののみならず、地のすべての獣と契約を立てる。 11わたしがあなたたちと契約を立てたならば、二度と洪水によって肉なるものがことごとく滅ぼされることはなく、洪水が起こって地を滅ぼすことも決してない。」
12更に神は言われた。
「あなたたちならびにあなたたちと共にいるすべての生き物と、代々とこしえにわたしが立てる契約のしるしはこれである。 13すなわち、わたしは雲の中にわたしの虹を置く。これはわたしと大地の間に立てた契約のしるしとなる。 14わたしが地の上に雲を湧き起こらせ、雲の中に虹が現れると、 15わたしは、わたしとあなたたちならびにすべての生き物、すべて肉なるものとの間に立てた契約に心を留める。水が洪水となって、肉なるものをすべて滅ぼすことは決してない。 16雲の中に虹が現れると、わたしはそれを見て、神と地上のすべての生き物、すべて肉なるものとの間に立てた永遠の契約に心を留める。」
17神はノアに言われた。
「これが、わたしと地上のすべて肉なるものとの間に立てた契約のしるしである。」

詩編 25:4-10

4 主よ、あなたの道を示し‖ その道筋を教えてください
5 真理のうちにわたしを教え導いてください‖ あなたはわたしの救い、いつの日も、わたしはあなたを待ち望む
6 主よ、あなたの憐れみと慈しみを思い出してください‖ それは昔から変わらないもの
7 若いときの罪と過ちに心を留めず‖ 慈しみ深くわたしを思い出してください
8 主は憐れみ深く正しい方‖ 罪人に道を示される
9 神は貧しい人を正義に導き‖ へりくだる人にその道を授けられる
10 契約と諭しを守る人に‖ 主の道筋は慈しみとまことに溢れる

使徒書 ペトロの手紙 I 3:18-22

18キリストも、罪のためにただ一度苦しまれました。正しい方が、正しくない者たちのために苦しまれたのです。あなたがたを神のもとへ導くためです。キリストは、肉では死に渡されましたが、霊では生きる者とされたのです。 19そして、霊においてキリストは、捕らわれていた霊たちのところへ行って宣教されました。 20この霊たちは、ノアの時代に箱舟が作られていた間、神が忍耐して待っておられたのに従わなかった者です。この箱舟に乗り込んだ数人、すなわち八人だけが水の中を通って救われました。 21この水で前もって表された洗礼は、今やイエス・キリストの復活によってあなたがたをも救うのです。洗礼は、肉の汚れを取り除くことではなくて、神に正しい良心を願い求めることです。 22キリストは、天に上って神の右におられます。天使、また権威や勢力は、キリストの支配に服しているのです。

福音書 マルコによる福音書1:9-13

9そのころ、イエスはガリラヤのナザレから来て、ヨルダン川でヨハネから洗礼を受けられた。 10水の中から上がるとすぐ、天が裂けて“霊”が鳩のように御自分に降って来るのを、御覧になった。 11すると、「あなたはわたしの愛する子、わたしの心に適う者」という声が、天から聞こえた。
12それから、“霊”はイエスを荒れ野に送り出した。 13イエスは四十日間そこにとどまり、サタンから誘惑を受けられた。その間、野獣と一緒におられたが、天使たちが仕えていた。

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