司祭 フランシス 中山 茂
(マルコによる福音書 第12章28節―34節)
「聞け、イスラエルよ」に始まる「心底(しんそこ)から‥‥力を尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。」が守らなければならない第1の戒めであり、これと同様に大事な戒めとしてイエス様は「隣人を自分のように愛しなさい。」と教えられました。
愛することは、親子の愛、きょうだいの愛、恋人との愛、友人との愛等々、自明のこと、説明のいらないことと思うのですが、分かっているようで実はとても難しいのです。
エーリッヒ・フロムは著書『愛するということ』の中で、愛は学ばなければならないことなんだと教えています。
先日、教役者会に参加するため、甲府から伊東に向かう途中、ラジオでニッポン放送を聞いていました。(山梨でも電波状況によって東京の放送を聞くことが出来ます)
人生相談の番組で29歳の御婦人が電話してきました。お子さんが3人で上の子が八歳、下の子が0歳とのことでした。相談は旦那さんの浮気が発覚し六か月ほど前に「離婚したい」と告げられ、2か月程前から家にまったく帰ってこなくなったということでした。「性格が合わない」と言われ、相手の女性に慰謝料請求をしたら、当然の行為だと思うのに『そういうことをする人とは合わない』など言われ、生活費を入れてくれなくて、メールを出しても返信がないので途方に暮れての相談でした。
相談を受けた先生が「2か月ですか! そういう男性は、いずれその女性にも飽きてしまうかもしれないね。一度振り上げた手を下ろせない状態かもしれない。」「旦那さんはもてるタイプですか?」女性が「ええ、顔は割といい方です!」先生が「結婚したのは20歳前後ですね。言葉はきついけど、こんな幼稚な男性を好きになる女性だったんですよ。見抜けなかった反省の上に新しい人生を歩まなきゃね。1人でやっていくという覚悟も必要かもしれないね」とだいたいこんなやり取りでした。
愛し合って結婚したはずなのに、しかもお子さんが3人もいるのに、愛することの難しさを教えてくれました。
親子で虐待のニュースは絶えず、幼稚園•保育園では異常があったら教えてくださいと当局から通達が来ています。体に痣があるとか、いつも同じ服を着ているとか、、、。
かつて盛岡で少年刑務所と少年院で教誨師をしていましたが、多くの少年が家庭に恵まれていないとのことでした。個人情報のため具体的なことは教えてくれないのですが、家族がきちんとしている少年は立ち直っていくとのことでした。少年事件があるとき、その子の成育歴をたどると、ひどい育てられ方をしている例が多いのです。
病気になったとき健康の有り難さが分かるように、愛が乏しいとき、愛が失われていると思えるとき、実はそのときが愛を知ることができる尊いときなのかもしれません。
愛することの難しさの極地は「敵を愛せよ」(マタイ5:44)です。このことを説明するのは大変です。次のキング牧師の言葉に出会い、教えられました。
「愛は、敵を友人に変えることのできる唯一の力である」
(甲府聖オーガスチン教会牧師)
(『横浜教区報』2024年11月号巻頭言より)
特祷 特定26
全能の神よ、あなたは独りのみ子を与えてわたしたちの罪のいけにえとし、また清い生涯の模範とされました。どうか深く感謝してその計り知れない恵みを受け、常に力を尽くしてみ跡を踏むことができますように、主イエス・キリストによってお願いいたします。アーメン
日本聖公会祈祷書より
以下の旧約聖書、使徒書、福音書は『聖書 新共同訳』より引用しました。
©︎共同訳聖書実行委員会
Executive Committee of The Common Bible Translation
©︎日本聖書協会
Japan Bible Society , Tokyo 1987,1988
旧約聖書 申命記 6:1-9
1これは、あなたたちの神、主があなたたちに教えよと命じられた戒めと掟と法であり、あなたたちが渡って行って得る土地で行うべきもの。 2あなたもあなたの子孫も生きている限り、あなたの神、主を畏れ、わたしが命じるすべての掟と戒めを守って長く生きるためである。 3イスラエルよ、あなたはよく聞いて、忠実に行いなさい。そうすれば、あなたは幸いを得、父祖の神、主が約束されたとおり、乳と蜜の流れる土地で大いに増える。 4聞け、イスラエルよ。我らの神、主は唯一の主である。 5あなたは心を尽くし、魂を尽くし、力を尽くして、あなたの神、主を愛しなさい。 6今日わたしが命じるこれらの言葉を心に留め、 7子供たちに繰り返し教え、家に座っているときも道を歩くときも、寝ているときも起きているときも、これを語り聞かせなさい。 8更に、これをしるしとして自分の手に結び、覚えとして額に付け、 9あなたの家の戸口の柱にも門にも書き記しなさい。
詩編 119:1-8 または 119:1-16
1いかに幸いなことでしょう/まったき道を踏み、主の律法に歩む人は。
2いかに幸いなことでしょう/主の定めを守り/心を尽くしてそれを尋ね求める人は。
3彼らは決して不正を行わず/主の道を歩みます。
4あなたは仰せになりました/あなたの命令を固く守るように、と。
5わたしの道が確かになることを願います/あなたの掟を守るために。
6そうなれば、あなたのどの戒めに照らしても/恥じ入ることがないでしょう。
7あなたの正しい裁きを学び/まっすぐな心であなたに感謝します。
8あなたの掟を守ります。どうか、お見捨てにならないでください。
9どのようにして、若者は/歩む道を清めるべきでしょうか。あなたの御言葉どおりに道を保つことです。
10心を尽くしてわたしはあなたを尋ね求めます。あなたの戒めから/迷い出ることのないようにしてください。
11わたしは仰せを心に納めています/あなたに対して過ちを犯すことのないように。
12主よ、あなたをたたえます。あなたの掟を教えてください。
13あなたの口から与えられた裁きを/わたしの唇がひとつひとつ物語りますように。
14どのような財宝よりも/あなたの定めに従う道を喜びとしますように。
15わたしはあなたの命令に心を砕き/あなたの道に目を注ぎます。
16わたしはあなたの掟を楽しみとし/御言葉を決して忘れません。
使徒書 ヘブライ人への手紙 7:22-28
22このようにして、イエスはいっそう優れた契約の保証となられたのです。23また、レビの系統の祭司たちの場合には、死というものがあるので、務めをいつまでも続けることができず、多くの人たちが祭司に任命されました。24しかし、イエスは永遠に生きているので、変わることのない祭司職を持っておられるのです。25それでまた、この方は常に生きていて、人々のために執り成しておられるので、御自分を通して神に近づく人たちを、完全に救うことがおできになります。26このように聖であり、罪なく、汚れなく、罪人から離され、もろもろの天よりも高くされている大祭司こそ、わたしたちにとって必要な方なのです。27この方は、ほかの大祭司たちのように、まず自分の罪のため、次に民の罪のために毎日いけにえを献げる必要はありません。というのは、このいけにえはただ一度、御自身を献げることによって、成し遂げられたからです。28律法は弱さを持った人間を大祭司に任命しますが、律法の後になされた誓いの御言葉は、永遠に完全な者とされておられる御子を大祭司としたのです。
福音書 マルコによる福音書 12:28-34
28彼らの議論を聞いていた一人の律法学者が進み出、イエスが立派にお答えになったのを見て、尋ねた。「あらゆる掟のうちで、どれが第一でしょうか。」29イエスはお答えになった。「第一の掟は、これである。『イスラエルよ、聞け、わたしたちの神である主は、唯一の主である。30心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くし、力を尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。』31第二の掟は、これである。『隣人を自分のように愛しなさい。』この二つにまさる掟はほかにない。」32律法学者はイエスに言った。「先生、おっしゃるとおりです。『神は唯一である。ほかに神はない』とおっしゃったのは、本当です。33そして、『心を尽くし、知恵を尽くし、力を尽くして神を愛し、また隣人を自分のように愛する』ということは、どんな焼き尽くす献げ物やいけにえよりも優れています。」34イエスは律法学者が適切な答えをしたのを見て、「あなたは、神の国から遠くない」と言われた。もはや、あえて質問する者はなかった。