司祭 サムエル 小林 祐二
(ルカによる福音書2:22-40)
12月25日に降誕日を祝ったわたしたちは、40日後の2月2日に被献日を迎えます。祈祷書2ページには「次の祝日は主日に優先して守る」とあり、そのなかにこの被献日があります。今年は2月2日が主日ですので、顕現後第4の意向に優先してこの被献日を記念します。平日に迎えることが多い祝日ですので、聖餐式聖書日課に触れる機会も比較的少ないと思います。福音書から黙想しましょう。
背景として思い起こしたいのは、まずユダヤに設けられた出産に伴う清めの期間(レビ記12)のことです。またモーセに示された初子の奉献(出エジプト13:2)も関わりがあります。後者は、本来なら全ての初子が一生神殿で仕えるところ、次第にその務めがレビ族に限定され、他部族は代わりに動物の生贄を献げる習慣となったようです。聖マリア・聖ヨセフ・幼子イエスさまの聖家族は、これらに基づきエルサレムに出かけたのでした。しかし福音書は単に規定を守ったということのみならず、そこに引き起こされたふたつの出会いを伝えます。
まず現れたのはシメオンです。彼は「主が遣わすメシアに会うまでは決して死なない」とお告げを受け、その方をずっと待っていました。イエスさまを見出すなり万感の思いで「シメオンの賛歌」をうたい、去って行きます。この喜びと平安に満ちた賛歌は、夕の礼拝や就寝前の祈り、葬送式で用い、一日の終わり、また地上の歩みを終える感謝に誘われます。
続いてアンナが現れました。彼女はイスラエル部族の隠れた部族の末裔で、伴侶に先立たれる悲しみを担いつつ、メシアの到来を心待ちに神殿で仕えていました。そしてイエスさまに預言の成就を見出し、伝えずにはいられない喜びに満たされました。
イエスさまは確かに神殿で神さまに献げられました。しかし、それは聖家族にとっての喪失だったのでしょうか。天使のみ告げを受けてきたふたりですから、幼子を神さまにお返しするのは当然のことだったのかもしれませんが、シメオンとアンナの賛美にふれ、献げることによってもたらす深い喜びを見出したのではないでしょうか。
わたしたちは人生のほとんどを種々の獲得・消費に費やし、意識せず「自分で得たものは自分のもの」、「得ることは良いこと」という前提に立たされています。そして順風満帆なときには何かを失うことなど考えもせず、最も恐れる死=地上の命の喪失に至ってはできるだけ遠くに追いやって過ごしています。しかし、欲望の奥底にある魂が探し求めているのは、永遠たるものではないでしょうか。この矛盾が多くの困難を引き起こしているように思います。見えない魂のために見えるものが与えられているところ、気づけばいつか朽ち果てるものに囚われていないでしょうか。
わたしたちは聖餐式の度「すべてのものは主の賜物。わたしたちは主から受けて主に献げたのです」(歴代上29:14 聖餐式奉献)と口にします。この言葉が人生の隅々にまで行き渡り、心からの喜びの言葉となりますように。
(清里聖アンデレ教会牧師)
(長坂聖マリヤ教会管理牧師)
(『横浜教区報』2025年2月号巻頭言より)
特祷
永遠にいます全能の神よ、この日、独りのみ子は、律法に従い神殿において献げられ、主の民の栄光、諸国民の光として迎えられました。どうかわたしたちも主にあってみ前に献げられ、この世において主の栄光を現すことができますように、主イエス・キリストによってお願いいたします。アーメン
旧約聖書 マラキ書 3:1-4
1見よ、わたしは使者を送る。
彼はわが前に道を備える。
あなたたちが待望している主は
突如、その聖所に来られる。
あなたたちが喜びとしている契約の使者
見よ、彼が来る、と万軍の主は言われる。
2だが、彼の来る日に誰が身を支えうるか。
彼の現れるとき、誰が耐えうるか。
彼は精錬する者の火、洗う者の灰汁のようだ。
3彼は精錬する者、銀を清める者として座し
レビの子らを清め
金や銀のように彼らの汚れを除く。
彼らが主に献げ物を
正しくささげる者となるためである。
4そのとき、ユダとエルサレムの献げ物は
遠い昔の日々に
過ぎ去った年月にそうであったように
主にとって好ましいものとなる。
詩編 51:15-19 または 84:1-7または 84
51:15-19
15 主よ、わたしの口を開いてください∥ わたしはあなたの誉れを告げ知らせる
16 あなたはいけにえを望まれず∥ 燔祭を献げても喜ばれない
17 神よ、わたしの献げ物は砕かれた心∥ あなたは悔い改める心を見捨てられない
18 み旨のままにシオンを恵みで潤し∥ エルサレムの城壁を新たにしてください
19 そのとき、あなたは正しい献げ物を喜ばれ∥ わたしたちはあなたの祭壇で仕えるようになる
84
1 万軍の主よ∥ あなたのみ住まいは麗しい
2 わたしの魂は主の庭を慕い∥ 心を込めてあなたの命を喜び歌う
3 万軍の神、わたしの王、わたしの神よ∥ あなたの祭壇の傍らに、雀は住みかを見つけ、燕は巣を作ってひなを育てる
4 幸せな人、あなたの家を住まいとし∥ 絶えずあなたをたたえる人
5 幸せな人∥ あなたによって奮い立ち、巡礼を志す人
6 かれた谷を通るとき、彼らはそこを泉とし∥ 秋の雨の祝福を受ける
7 力から力へと強められて進み∥ シオンであなたを仰ぎ見る
8 万軍の神、主よ、わたしの祈りに心を留め∥ ヤコブの神よ、耳を傾けてください
9 神よ、わたしたちの盾よ∥ 油を注がれた者を顧みてください
10 あなたの庭で過ごす一日は、千日にもまさる∥ あなたに逆らう者の幕屋にとどまるより、あなたに家の門守としてください
11 神よ、あなたは光り輝く盾。恵みと栄えを与え∥ とがなく歩む者に幸せを拒まれない
12 神よ、万軍の主よ∥ あなたに寄り頼む人は幸せ
使徒書 ヘブライ人への手紙 2:14-18
14ところで、子らは血と肉を備えているので、イエスもまた同様に、これらのものを備えられました。それは、死をつかさどる者、つまり悪魔を御自分の死によって滅ぼし、15死の恐怖のために一生涯、奴隷の状態にあった者たちを解放なさるためでした。16確かに、イエスは天使たちを助けず、アブラハムの子孫を助けられるのです。17それで、イエスは、神の御前において憐れみ深い、忠実な大祭司となって、民の罪を償うために、すべての点で兄弟たちと同じようにならねばならなかったのです。18事実、御自身、試練を受けて苦しまれたからこそ、試練を受けている人たちを助けることがおできになるのです。
福音書 ルカによる福音書 2:22-40
22さて、モーセの律法に定められた彼らの清めの期間が過ぎたとき、両親はその子を主に献げるため、エルサレムに連れて行った。23それは主の律法に、「初めて生まれる男子は皆、主のために聖別される」と書いてあるからである。24また、主の律法に言われているとおりに、山鳩一つがいか、家鳩の雛二羽をいけにえとして献げるためであった。
25そのとき、エルサレムにシメオンという人がいた。この人は正しい人で信仰があつく、イスラエルの慰められるのを待ち望み、聖霊が彼にとどまっていた。26そして、主が遣わすメシアに会うまでは決して死なない、とのお告げを聖霊から受けていた。27シメオンが“霊”に導かれて神殿の境内に入って来たとき、両親は、幼子のために律法の規定どおりにいけにえを献げようとして、イエスを連れて来た。28シメオンは幼子を腕に抱き、神をたたえて言った。
29「主よ、今こそあなたは、お言葉どおり
この僕を安らかに去らせてくださいます。
30わたしはこの目であなたの救いを見たからです。
31これは万民のために整えてくださった救いで、
32異邦人を照らす啓示の光、
あなたの民イスラエルの誉れです。」
33父と母は、幼子についてこのように言われたことに驚いていた。34シメオンは彼らを祝福し、母親のマリアに言った。「御覧なさい。この子は、イスラエルの多くの人を倒したり立ち上がらせたりするためにと定められ、また、反対を受けるしるしとして定められています。35――あなた自身も剣で心を刺し貫かれます――多くの人の心にある思いがあらわにされるためです。」
36また、アシェル族のファヌエルの娘で、アンナという女預言者がいた。非常に年をとっていて、若いとき嫁いでから七年間夫と共に暮らしたが、37夫に死に別れ、八十四歳になっていた。彼女は神殿を離れず、断食したり祈ったりして、夜も昼も神に仕えていたが、38そのとき、近づいて来て神を賛美し、エルサレムの救いを待ち望んでいる人々皆に幼子のことを話した。
39親子は主の律法で定められたことをみな終えたので、自分たちの町であるガリラヤのナザレに帰った。40幼子はたくましく育ち、知恵に満ち、神の恵みに包まれていた。
旧約聖書、使徒書、福音書は『聖書 新共同訳』より引用しました。
©︎共同訳聖書実行委員会
Executive Committee of The Common Bible Translation
©︎日本聖書協会
Japan Bible Society , Tokyo 1987,1988
特祷、詩編は『日本聖公会祈祷書』より引用しました。
©︎日本聖公会 1990