「3つの誘惑」大斎節第1主日

司祭 ラファエル 宮﨑 仁
(ルカによる福音書 第4章1節-13節)

 新しいイスラエルの民とは、救い主なる神でおられるイエス・キリストを信じる人々のことです。イエス様は新しいイスラエルの民のために古いイスラエルの民やモーセが受けたことを3つの誘惑としてご自身でお受けになられました。イエス様は初めに飢えてパンの誘惑を受けました。主なる神は民をエジプトから解放してくださりエジプト軍を海に沈めるなど多くの奇跡を実現されました。民は数々の奇跡を目の当たりにしていましたが、モーセを通して神に向かって不平不満を述べ立てました。神は民の声を聞き、夕方にはうずらと朝にはマナというパンを民に与えて荒れ野での40年間養い続けてくださいました。モーセに対する不満の訴えは、神に向かって述べ立てることと同じです。神に服従しなければならないのに不平不満を言うことは試みである誘惑に負けたということです。

 イエス様は、数々の奇跡を実現される主なる神の力を託されていますので自分のために使えば石もパンになります。ですがイエス様は、不平不満を言わず神の愛する子として神に従い誘惑を退けました。

 イエス様は申命記の言葉を語られました。その言葉を含めた部分を以下にご紹介します。「あなたの神、主が導かれたこの40年の荒れ野の旅を思い起こしなさい。こうして主はあなたを苦しめて試し、あなたの心にあること、すなわちご自分の戒めを守るかどうかを知ろうとされた。主はあなたを苦しめ、飢えさせ、あなたも先祖も味わったことのないマナを食べさせられた。人はパンだけで生きるのではなく、人は主の口から出るすべての言葉によって生きることをあなたに知らせるためであった。この40年の間、あなたのまとう着物は古びず、足がはれることもなかった。あなたは、人が自分の子を訓練するように、あなたの神、主があなたを訓練されることを心に留めなさい。あなたの神、主の戒めを守り、主の道を歩み、彼を畏れなさい。」(申命記8:2-6)

 次に悪魔は神以外の存在を神とするようにイエス様を誘惑します。イエス様は神だけに従うことを宣言され悪魔を退けます。イエス様の語られた言葉を含めた部分は申命記6:10-15にあります。別のものを神とすることは出エジプト記32:1-35にあります。この中で民は神から離れ金の子牛にひれ伏しました。神の怒りは民全滅の危機となりました。

 3つ目の誘惑で悪魔は、イエス様に自分のために神の力を使うことで神を試すようにと言いました。イエス様は神に全てを委ねる信頼を示して誘惑を退けました。イエス様の語られた言葉を含めた部分は申命記6:16-19にあります。神を試すことは出エジプト記17:1-9にあります。この中で、民は飲み水がない乾きからモーセと争い不平を言い神を試しました。神は民に水を与えました。

 3つの誘惑に表された古い民はかたくなで不平不満を言い、争い、神に従わず試みである誘惑に負けました。イエス様は新しいイスラエルの民のために、神に不平不満を言わず服従し誘惑に勝ち救いを実現されました。イエス様の表されたことに改めて心を寄せたいと思います。

(松戸聖パウロ教会牧師)
(柏聖アンデレ教会管理牧師)

(『横浜教区報』2025年3月号巻頭言より)

特祷

四十日四十夜、わたしたちのためにみ子を断食させられた主よ、どうか己に勝つ力を与え、肉の思いを主のみ霊に従わせ、常にわたしたちがその導きにこたえ、ますます清くなり、主の栄光を現すことができますように、父と聖霊とともに一体であって世々に生き支配しておられるみ子イエス・キリストによってお願いいたします。アーメン

旧約聖書 申命記 26:(1-4),5-11

1あなたの神、主が嗣業の土地として得させるために与えられる土地にあなたが入り、そこに住むときには、 2あなたの神、主が与えられる土地から取れるあらゆる地の実りの初物を取って籠に入れ、あなたの神、主がその名を置くために選ばれる場所に行きなさい。 3あなたは、そのとき任に就いている祭司のもとに行き、「今日、わたしはあなたの神、主の御前に報告いたします。わたしは、主がわたしたちに与えると先祖たちに誓われた土地に入りました」と言いなさい。 4祭司はあなたの手から籠を受け取って、あなたの神、主の祭壇の前に供える。 5あなたはあなたの神、主の前で次のように告白しなさい。「わたしの先祖は、滅びゆく一アラム人であり、わずかな人を伴ってエジプトに下り、そこに寄留しました。しかしそこで、強くて数の多い、大いなる国民になりました。 6エジプト人はこのわたしたちを虐げ、苦しめ、重労働を課しました。 7わたしたちが先祖の神、主に助けを求めると、主はわたしたちの声を聞き、わたしたちの受けた苦しみと労苦と虐げを御覧になり、 8力ある御手と御腕を伸ばし、大いなる恐るべきこととしるしと奇跡をもってわたしたちをエジプトから導き出し、 9この所に導き入れて乳と蜜の流れるこの土地を与えられました。10わたしは、主が与えられた地の実りの初物を、今、ここに持って参りました。」あなたはそれから、あなたの神、主の前にそれを供え、あなたの神、主の前にひれ伏し、11あなたの神、主があなたとあなたの家族に与えられたすべての賜物を、レビ人およびあなたの中に住んでいる寄留者と共に喜び祝いなさい。

詩編 91:9-15 または 91

91
1 いと高き方のもと、その隠れ場に住み∥ 全能である方に守られて暮らす者の言葉
2 「主はわたしの逃れ場、わたしの砦∥ わたしは神に寄り頼む」
3 狩人のわな、滅びの疫病から∥ 神はあなたを救われる
4 神はその羽であなたを覆い、翼のもとにあなたは逃れる∥ 神のまことは大盾、小盾
5 夜襲ってくる恐怖、昼飛んで来る矢も∥ あなたは恐れることはない
6 夜中に忍び寄る疫病も∥ 昼間に起こる災いも恐れることはない
7 あなたの傍らに千人、右に万人倒れても∥ 危険はあなたに近づかない
8 あなたの目はただこのことを見∥ 神に逆らう者への報いを眺める
9 あなたは主を逃れ場とし∥ いと高き方を隠れ場とした
10 それゆえ、不幸はあなたに臨まず∥ 災いはあなたの天幕に近づかない
11 神があなたのためにみ使いに命じ∥ あなたの進むすべての道を守られる
12 石に足を打ちつけることのないように∥ 神のみ使いは手であなたを支える
13 あなたはししとまむしを踏みつけ∥ 若じしとへびを踏みにじる
14 「わたしに頼る者をわたしは救い∥ わたしを知っている者をわたしは守る
15 呼び求める者にわたしはこたえ∥ 悩みのときともにいて、救いと誉れを与えよう
16 長生きをさせて喜ばせ∥ 救いを豊かに与えよう」

使徒書 ローマの信徒への手紙 10:(5-8),9-13

5モーセは、律法による義について、「掟を守る人は掟によって生きる」と記しています。 6しかし、信仰による義については、こう述べられています。「心の中で『だれが天に上るか』と言ってはならない。」これは、キリストを引き降ろすことにほかなりません。 7また、「『だれが底なしの淵に下るか』と言ってもならない。」これは、キリストを死者の中から引き上げることになります。 8では、何と言われているのだろうか。「御言葉はあなたの近くにあり、/あなたの口、あなたの心にある。」これは、わたしたちが宣べ伝えている信仰の言葉なのです。 9口でイエスは主であると公に言い表し、心で神がイエスを死者の中から復活させられたと信じるなら、あなたは救われるからです。10実に、人は心で信じて義とされ、口で公に言い表して救われるのです。11聖書にも、「主を信じる者は、だれも失望することがない」と書いてあります。12ユダヤ人とギリシア人の区別はなく、すべての人に同じ主がおられ、御自分を呼び求めるすべての人を豊かにお恵みになるからです。13「主の名を呼び求める者はだれでも救われる」のです。

福音書 ルカによる福音書 4:1-13

1さて、イエスは聖霊に満ちて、ヨルダン川からお帰りになった。そして、荒れ野の中を“霊”によって引き回され、 2四十日間、悪魔から誘惑を受けられた。その間、何も食べず、その期間が終わると空腹を覚えられた。 3そこで、悪魔はイエスに言った。「神の子なら、この石にパンになるように命じたらどうだ。」 4イエスは、「『人はパンだけで生きるものではない』と書いてある」とお答えになった。 5更に、悪魔はイエスを高く引き上げ、一瞬のうちに世界のすべての国々を見せた。 6そして悪魔は言った。「この国々の一切の権力と繁栄とを与えよう。それはわたしに任されていて、これと思う人に与えることができるからだ。 7だから、もしわたしを拝むなら、みんなあなたのものになる。」 8イエスはお答えになった。「『あなたの神である主を拝み、/ただ主に仕えよ』/と書いてある。」 9そこで、悪魔はイエスをエルサレムに連れて行き、神殿の屋根の端に立たせて言った。「神の子なら、ここから飛び降りたらどうだ。10というのは、こう書いてあるからだ。『神はあなたのために天使たちに命じて、/あなたをしっかり守らせる。』11また、/『あなたの足が石に打ち当たることのないように、/天使たちは手であなたを支える。』」12イエスは、「『あなたの神である主を試してはならない』と言われている」とお答えになった。13悪魔はあらゆる誘惑を終えて、時が来るまでイエスを離れた。

旧約聖書、使徒書、福音書は『聖書 新共同訳』より引用しました。
©︎共同訳聖書実行委員会
Executive Committee of The Common Bible Translation
©︎日本聖書協会
Japan Bible Society , Tokyo 1987,1988

特祷、詩編は『日本聖公会祈祷書』より引用しました。
©︎日本聖公会 1990

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