「既に来られ、まだ来ていない神のみ国」聖霊降臨後第7主日(特定12)

司祭 テモテ 姜暁俊
(ルカによる福音書第11章1節―13節)

キリスト教の数々の成文祈祷の内、一番大事なお祈りをあげるならば誰でも「主の祈り」をあげるのではないかと思います。私自身も教会で学生たちに「お祈りに自信がないときは主の祈りを唱えなさい」と教えたことがありますが、それぐらいこの主の祈りはすべての祈りの模範とされていて、この日の聖書日課では「祈りを教えてください」という弟子たちの要望にイエス・キリストは「主の祈り」で答えてくださいます。

 この「主の祈り」では私たちが求めるべき「神のみ国」について語られています。主の祈りで神のみ国とは神の栄光が世界に満ち、すべての人が神のみ名をほめたたえる世界です。そしてその神の栄光に満ちた世界の現実的な姿は「すべてのものに糧が与えられる世界」「すべてのものが互いにゆるし合う世界」「自分の欲を満たしたい悪の誘惑から自由になる世界」で表現されます。このような世界が成し遂げられる時、神のみ名は世界中でほめたたえられ、神の栄光に満ちたみ国は完成されます。イエス・キリストはそのような神のみ国の成就のために祈り、働いていくことを弟子たちに命じられました。

 実はこの「神のみ国」はイエス・キリストがこの世に来られた時に既に臨まれたと理解されています。子なる神が自ら人間になられて私たちの内に住まわれたときに神のみ国は私たちの間に臨在しました。そして主の公の活動を通して既に来ている神のみ国が世に知らされました。主が飢えている人をパンで満たし、神を愛し、自分を愛するように人を愛することを教えられたとき、自分を救いたい欲に勝ち、人の救いのため自らを献げ、復活されることによって偉大な神のみ国はまさにそこにありました。

 しかし同時に神のみ国はまだ完成されずにいます。世界のどこかで飢えと暴力に苦しむ人がいて、憎しみと自分の欲のために互いを傷つける現実がある限り、私たちは主イエスが宣べ伝えられた神のみ国はまだ完成されていないと気づき、神のみ国が成し遂げられるように祈り続けます。私たちは「既に始まったが、まだ完成されていない神のみ国」の時代を生きている人たちです。

 主イエスによって既に示された神のみ国を知っている私たちは限りなくそのみ国の成就を求め、祈り、働かずにはいられません。私たちは主イエス・キリストの福音を通して顕れた神のみ国から希望を見つけ、その希望の成就のため働く人です。

たとえ果てしなく遠いように見えても、夢想に過ぎないと批判されても、「だれでも、求める者は受け、探す者は見つけ、門をたたく者には開かれる。」(ルカ11:10)という主イエス・キリストのみ言葉を信じ、この世界が主の祈りで語られる神のみ国になるように祈り、求めること、その神のみ国の成就のために自分自身の生活の場で働くことを決め、神のみ国のために働く力、聖霊のみ力が与えられるように求めること、これにこそ教会の存在意味があるのではないでしょうか。

(八日市場聖三一教会牧師)
(銚子諸聖徒教会管理牧師)

(『横浜教区報』2025年7月号巻頭言より)

特祷

永遠にいます全能の神よ、あなたは常にわたしたちたちの祈りに先立って聞き、わたしたちが願うよりも多く与えようとしておられます。どうか豊かな恵みを注ぎ、わたしたちを赦して良心の恐れを除き、あえて願いえない良いものを与えてください。み子イエス・キリストのいさおととりなしによってお願いいたします。アーメン

旧約聖書 創世記 18:20-33

 20主は言われた。
 「ソドムとゴモラの罪は非常に重い、と訴える叫びが実に大きい。21わたしは降って行き、彼らの行跡が、果たして、わたしに届いた叫びのとおりかどうか見て確かめよう。」
 22その人たちは、更にソドムの方へ向かったが、アブラハムはなお、主の御前にいた。23アブラハムは進み出て言った。
 「まことにあなたは、正しい者を悪い者と一緒に滅ぼされるのですか。24あの町に正しい者が五十人いるとしても、それでも滅ぼし、その五十人の正しい者のために、町をお赦しにはならないのですか。25正しい者を悪い者と一緒に殺し、正しい者を悪い者と同じ目に遭わせるようなことを、あなたがなさるはずはございません。全くありえないことです。全世界を裁くお方は、正義を行われるべきではありませんか。」
 26主は言われた。
 「もしソドムの町に正しい者が五十人いるならば、その者たちのために、町全部を赦そう。」
 27アブラハムは答えた。
 「塵あくたにすぎないわたしですが、あえて、わが主に申し上げます。28もしかすると、五十人の正しい者に五人足りないかもしれません。それでもあなたは、五人足りないために、町のすべてを滅ぼされますか。」
 主は言われた。
 「もし、四十五人いれば滅ぼさない。」
 29アブラハムは重ねて言った。
 「もしかすると、四十人しかいないかもしれません。」
 主は言われた。
 「その四十人のためにわたしはそれをしない。」
 30アブラハムは言った。
 「主よ、どうかお怒りにならずに、もう少し言わせてください。もしかすると、そこには三十人しかいないかもしれません。」
 主は言われた。
 「もし三十人いるならわたしはそれをしない。」
 31アブラハムは言った。
 「あえて、わが主に申し上げます。もしかすると、二十人しかいないかもしれません。」
 主は言われた。「その二十人のためにわたしは滅ぼさない。」
 32アブラハムは言った。
 「主よ、どうかお怒りにならずに、もう一度だけ言わせてください。もしかすると、十人しかいないかもしれません。」
 主は言われた。
 「その十人のためにわたしは滅ぼさない。」
 33主はアブラハムと語り終えると、去って行かれた。アブラハムも自分の住まいに帰った。

詩編 138

1       神よ、わたしたちは心を尽くしてあなたに感謝し∥ もろもろの神の前であなたをたたえる

2       あなたの尊い宮に向かってひれ伏し、慈しみとまことのゆえにみ名に向かって感謝を献げる∥ あなたは約束を果たし、み名をすべてにまさるものとされた

3       わたしが叫びを上げたとき、あなたは答え∥ わたしの魂の中に力を増してくださった

4       主よ、国々の王はあなたに感謝を献げる∥ あなたのみ言葉を聞いたから

5       彼らは主のみ業を喜び歌う∥ 「主の栄光は偉大」と

6       いと高き主は、へりくだる人に心を留め∥ 高ぶる者には近づかれない

7       苦しみにの中にあるときも、あなたはわたしの命を支えられる∥ み手を延ばして敵の怒りを退け、右のみ手でわたしを救われる

8       主は、わたしに約束されたことを、すべて成し遂げられる∥ 主よ、あなたの慈しみは永遠、み手の業を見捨てないでください

使徒書 コロサイの信徒への手紙 2:6-15

 6あなたがたは、主キリスト・イエスを受け入れたのですから、キリストに結ばれて歩みなさい。 7キリストに根を下ろして造り上げられ、教えられたとおりの信仰をしっかり守って、あふれるばかりに感謝しなさい。 8人間の言い伝えにすぎない哲学、つまり、むなしいだまし事によって人のとりこにされないように気をつけなさい。それは、世を支配する霊に従っており、キリストに従うものではありません。 9キリストの内には、満ちあふれる神性が、余すところなく、見える形をとって宿っており、10あなたがたは、キリストにおいて満たされているのです。キリストはすべての支配や権威の頭です。11あなたがたはキリストにおいて、手によらない割礼、つまり肉の体を脱ぎ捨てるキリストの割礼を受け、12洗礼によって、キリストと共に葬られ、また、キリストを死者の中から復活させた神の力を信じて、キリストと共に復活させられたのです。13肉に割礼を受けず、罪の中にいて死んでいたあなたがたを、神はキリストと共に生かしてくださったのです。神は、わたしたちの一切の罪を赦し、14規則によってわたしたちを訴えて不利に陥れていた証書を破棄し、これを十字架に釘付けにして取り除いてくださいました。15そして、もろもろの支配と権威の武装を解除し、キリストの勝利の列に従えて、公然とさらしものになさいました。

福音書 ルカによる福音書 11:1-13

 1イエスはある所で祈っておられた。祈りが終わると、弟子の一人がイエスに、「主よ、ヨハネが弟子たちに教えたように、わたしたちにも祈りを教えてください」と言った。 2そこで、イエスは言われた。「祈るときには、こう言いなさい。
『父よ、
御名が崇められますように。御国が来ますように。
3わたしたちに必要な糧を毎日与えてください。
4わたしたちの罪を赦してください、
わたしたちも自分に負い目のある人を
皆赦しますから。
わたしたちを誘惑に遭わせないでください。』」
 5また、弟子たちに言われた。「あなたがたのうちのだれかに友達がいて、真夜中にその人のところに行き、次のように言ったとしよう。『友よ、パンを三つ貸してください。 6旅行中の友達がわたしのところに立ち寄ったが、何も出すものがないのです。』 7すると、その人は家の中から答えるにちがいない。『面倒をかけないでください。もう戸は閉めたし、子供たちはわたしのそばで寝ています。起きてあなたに何かをあげるわけにはいきません。』 8しかし、言っておく。その人は、友達だからということでは起きて何か与えるようなことはなくても、しつように頼めば、起きて来て必要なものは何でも与えるであろう。 9そこで、わたしは言っておく。求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、開かれる。10だれでも、求める者は受け、探す者は見つけ、門をたたく者には開かれる。11あなたがたの中に、魚を欲しがる子供に、魚の代わりに蛇を与える父親がいるだろうか。12また、卵を欲しがるのに、さそりを与える父親がいるだろうか。13このように、あなたがたは悪い者でありながらも、自分の子供には良い物を与えることを知っている。まして天の父は求める者に聖霊を与えてくださる。」

旧約聖書、使徒書、福音書は『聖書 新共同訳』より引用しました。
©︎共同訳聖書実行委員会
Executive Committee of The Common Bible Translation
©︎日本聖書協会
Japan Bible Society , Tokyo 1987,1988

特祷、詩編は『日本聖公会祈祷書』より引用しました。
©︎日本聖公会 1990

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