司祭 パウロ 窪田 真人
(ルカによる福音書 第16章1節-13節)
ある不正直な者が、今まさに雇い主の資産を使い込んだために職を失おうとしています。彼は雇い主に金を借りているすべての人を訪ねて回り、勝手に借金を減らす。そうすることで、職を失った後でも便宜を図ってもらうためなのでしょう。驚いたことに、雇い主はこの不誠実な管理人を称賛するというもの。
この称賛は皮肉なのか、それとも正当な評価なのか。この疑問に答えるために、私たちはこのたとえ話がルカ福音書の中でどのような文脈に置かれているかに注目しなければなりません。解明の鍵となるのは、「放蕩息子のたとえ」(15:11-32)と「金持ちとラザロのたとえ」(10:19-31)で、この不正な管理人のたとえは富と救いの関係性をめぐる2つの物語に挟まれています。ルカにとってこの配置は偶然ではありません。放蕩息子と同じく、不正な管理人も「託されたものを浪費」する(15:13、16:1)。また、ラザロの物語と同様に、「金持ちがいた」という語り口で始まり、富と救いの関係が問われる展開です。このように、「不正な管理人のたとえ」は2つの物語の橋渡しとして機能しており、ルカにとってのこの世の価値観と神の価値観が逆転することを示します。たしかに、不正な管理人は道徳的ではありません。しかし、抜け目なく行動し、悪い状況を自分と他人の益になる方向へと転換しました。債務者の借金を減らすことで、彼は貸す者と借りる者という一方的な上下関係から、平等な関係(友人関係)へと人間関係の枠組みを転換させたのです。この点にこそ、ルカが伝えようとした神の国のヴィジョンがあります。ルカ1章のマリアの賛歌においても、「高ぶる者は退けられ、低い者が引き上げられる」(1:52)という逆転した価値観が語られています。神の支配が現れるとき、社会的・経済的優位性は打ち壊され、友情と共同体が新たに築かれるのです。
不正な管理人のたとえは、一見、倫理的曖昧さを含みつつも、ルカが大切にする神の国の価値観を逆説的に浮き彫りにする展開で、ルカがこのたとえ話をこの箇所に配置したのは、富と権力を中心とした世俗的秩序(価値観)に対する根本的な問いかけを行うためと考えることができます。罪深い者の抜け目なさの中にも、神の支配が現れる。弟子たちはそこから学び、与えられた富を、和解と友情のために、そして神の国の到来を準備するために用いなければなりません。今日の教会もまた、神から託された多くの資源(物的・人的・霊的な富)をいかに管理し、どう用いるかが問われています。イエスの復活後、その遺志を受け継ぐ形で共同体が形成され、聖霊によって世界宣教に出かけたこと、これが教会の誕生となりました。この原始教会は「使徒の教え、相互の交わり、パンを裂くこと、祈ることに熱心であった」(使徒2:42)と言われます。彼らは貧しかったけれども、互いに助け合って、心をひとつにして神を賛美する共同体でした。この視点こそ、現代の信仰者であるわたしたちが立ち返るべき大切な原点です。
(静岡聖ペテロ教会牧師)
(清水聖ヤコブ教会管理牧師)
(沼津聖ヨハネ教会管理牧師)
(『横浜教区報』2025年9月号 巻頭言より)
特祷・聖餐式聖書日課
特祷(特定20)
憐れみ深い全能の神よ、どうか主の豊かな恵みによって、すべての害あるものから守ってください。体と魂とに備えをし、あなたのみ心の思いを喜んで成し遂げることができますように、父と聖霊とともに一体であって世々に生き支配しておられる主イエス・キリストによってお願いいたします。アーメン
旧約聖書 アモス書8:4-7,(8-12)
4このことを聞け。
貧しい者を踏みつけ
苦しむ農民を押さえつける者たちよ。
5お前たちは言う。「新月祭はいつ終わるのか、穀物を売りたいものだ。安息日はいつ終わるのか、麦を売り尽くしたいものだ。エファ升は小さくし、分銅は重くし、偽りの天秤を使ってごまかそう。6弱い者を金で、貧しい者を靴一足の値で買い取ろう。また、くず麦を売ろう。」
7主はヤコブの誇りにかけて誓われる。
「わたしは、彼らが行ったすべてのことを
いつまでも忘れない。」
8このために、大地は揺れ動かないだろうか。
そこに住む者は皆、嘆き悲しまないだろうか。
大地はことごとくナイルのように盛り上がり
エジプトの大河のように押し上げられ
また、沈まないだろうか。
9その日が来ると、と主なる神は言われる。
わたしは真昼に太陽を沈ませ
白昼に大地を闇とする。
10わたしはお前たちの祭りを悲しみに
喜びの歌をことごとく嘆きの歌に変え
どの腰にも粗布をまとわせ
どの頭の髪の毛もそり落とさせ
独り子を亡くしたような悲しみを与え
その最期を苦悩に満ちた日とする。
11見よ、その日が来ればと
主なる神は言われる。
わたしは大地に飢えを送る。
それはパンに飢えることでもなく
水に渇くことでもなく
主の言葉を聞くことのできぬ飢えと渇きだ。
12人々は海から海へと巡り
北から東へとよろめき歩いて
主の言葉を探し求めるが
見いだすことはできない。
詩編 113編 または 138編
113編
1 ハレルヤ、主の僕よ、ほめたたえよ∥ 主のみ名をほめたたえよ
2 主のみ名に賛美∥ 今よりとこしえに
3 日の昇る所から沈む所まで∥ 主のみ名はたたえられる
4 主はすべての民にあがめられ∥ その栄光は天よりも高い
5 わたしたちの主に及ぶ者はだれか∥ 神は高く座し、天と地を見下ろされる
6 神は貧しい人を塵から立ち上がらせ∥ 恵まれない人を高く上げ
7 彼らを支配者とともに座らせ∥ 民の支配者とともに並ばせ
8 神は、子のない女を家に住まわせ∥ 子供を与えて幸せな母とされる、ハレルヤ
118編
1 主に感謝しなさい∥ 神は慈しみ深く、その憐れみは永遠
2 イスラエルよ、言え∥ 神の慈しみは永遠
3 アロンの家よ、言え∥ 神の慈しみは永遠
4 主を恐れる者よ、言え∥ 神の慈しみは永遠
5 悩みの中から主を呼び求めると∥ 主はこたえ、わたしを自由にされた
6 主はわたしとともにおられる。わたしは恐れることはない∥ 人がわたしに何をなしえよう
7 わたしの助けである主はわたしとともにおられる∥ わたしは敵をものともしない
8 主のみもとに身を避けるのは∥ 人に頼るよりもよい
9 主のみもとに身を避けるのは∥ 支配する者に頼るよりもよい
10 すべての国に囲まれたのに∥ わたしは主のみ名によって彼らを打ち砕いた
11 四方から取り囲まれていたのに∥ わたしは主のみ名によって彼らを打ち砕いた
12 彼らは蜂のようにわたしを囲み、いばらの火のように燃え上がったのに∥ わたしは主のみ名によって彼らを打ち砕いた
13 わたしが押され、突かれて倒れそうになったとき∥ 主はわたしを助けられた
14 主はわたしの力、わたしの歌∥ 神こそわたしの救い
15 喜びと勝利の叫びが正しい人の天幕にある∥ 「主の右の手は力を示す
16 神の右の手は高く上がり∥ その右の手は力を示す」
17 わたしは生き長らえて死ぬことなく∥ 主のみ業を告げ知らせよう
18 主はわたしを責められたのに∥ 死に渡そうとはされなかった
19 正義の門よ、扉を開け∥ わたしは中に入って主に感謝を献げよう
20 これは主の門∥ 正しい人はここから入る
21 わたしはあなたに感謝する∥ あなたはこたえてわたしを救われた
22 家造りの捨てた石が∥ 隅のかしら石となった
23 これは主のみ業∥ 人の目には不思議なこと
24 今日こそ主が造られた日∥ この日をともに喜び祝おう
25 ああ、主よ、お救いください∥ ああ、主よ、栄えをお与えください
26 主のみ名によって来る人に、祝福があるように∥ わたしたちは主の家からあなたがたを祝福する
27 神、主はわたしたちを照らしてくださる∥ 枝を携えて行列に加わり、祭壇の角まで進もう
28 あなたはわたしの神∥ あなたに感謝し、あなたをたたえる
29 主に感謝しなさい∥ 神は慈しみ深く、その憐れみは永遠
使徒書 テモテへの手紙Ⅰ2:1-8
1そこで、まず第一に勧めます。願いと祈りと執り成しと感謝とをすべての人々のためにささげなさい。2王たちやすべての高官のためにもささげなさい。わたしたちが常に信心と品位を保ち、平穏で落ち着いた生活を送るためです。3これは、わたしたちの救い主である神の御前に良いことであり、喜ばれることです。4神は、すべての人々が救われて真理を知るようになることを望んでおられます。5神は唯一であり、神と人との間の仲介者も、人であるキリスト・イエスただおひとりなのです。6この方はすべての人の贖いとして御自身を献げられました。これは定められた時になされた証しです。7わたしは、その証しのために宣教者また使徒として、すなわち異邦人に信仰と真理を説く教師として任命されたのです。わたしは真実を語っており、偽りは言っていません。
8だから、わたしが望むのは、男は怒らず争わず、清い手を上げてどこででも祈ることです。
福音書 ルカによる福音書16:1-13
1イエスは、弟子たちにも次のように言われた。「ある金持ちに一人の管理人がいた。この男が主人の財産を無駄使いしていると、告げ口をする者があった。2そこで、主人は彼を呼びつけて言った。『お前について聞いていることがあるが、どうなのか。会計の報告を出しなさい。もう管理を任せておくわけにはいかない。』3管理人は考えた。『どうしようか。主人はわたしから管理の仕事を取り上げようとしている。土を掘る力もないし、物乞いをするのも恥ずかしい。4そうだ。こうしよう。管理の仕事をやめさせられても、自分を家に迎えてくれるような者たちを作ればいいのだ。』5そこで、管理人は主人に借りのある者を一人一人呼んで、まず最初の人に、『わたしの主人にいくら借りがあるのか』と言った。6『油百バトス』と言うと、管理人は言った。『これがあなたの証文だ。急いで、腰を掛けて、五十バトスと書き直しなさい。』7また別の人には、『あなたは、いくら借りがあるのか』と言った。『小麦百コロス』と言うと、管理人は言った。『これがあなたの証文だ。八十コロスと書き直しなさい。』8主人は、この不正な管理人の抜け目のないやり方をほめた。この世の子らは、自分の仲間に対して、光の子らよりも賢くふるまっている。9そこで、わたしは言っておくが、不正にまみれた富で友達を作りなさい。そうしておけば、金がなくなったとき、あなたがたは永遠の住まいに迎え入れてもらえる。10ごく小さな事に忠実な者は、大きな事にも忠実である。ごく小さな事に不忠実な者は、大きな事にも不忠実である。11だから、不正にまみれた富について忠実でなければ、だれがあなたがたに本当に価値あるものを任せるだろうか。12また、他人のものについて忠実でなければ、だれがあなたがたのものを与えてくれるだろうか。13どんな召し使いも二人の主人に仕えることはできない。一方を憎んで他方を愛するか、一方に親しんで他方を軽んじるか、どちらかである。あなたがたは、神と富とに仕えることはできない。」
旧約聖書、使徒書、福音書は『聖書 新共同訳』より引用しました。
©︎共同訳聖書実行委員会
Executive Committee of The Common Bible Translation
©︎日本聖書協会
Japan Bible Society, Tokyo 1987,1988
特祷、詩編は『日本聖公会祈祷書』より引用しました。
©︎日本聖公会 1990