司祭 トマス 吉田仁志
(ルカによる福音書 第23章35節―43節)
降臨節に入る直前の主日を現行の祈祷書では「降臨節前主日」と呼んでいます。しかしながら、覚えておられる方も多いと思いますが、2006年からは「聖霊降臨後最終主日・キリストによる回復(降臨節前主日)」という非常に長い名前がしばらく試用されておりました。その後、いつの間にか、その長い名前は使われなくなり、元の名前に戻っています。当時の「管区事務所だより(2006年10月25日号)」によれば、《年間を通して読まれてきた福音書の出来事の最後に、すべてのものがキリストのうちに集められ、また解放されることが祈り求められ、そしてその主キリストを待ち望む降臨節へと続いていきます》と長い名前の試用に至った理由が説明されています。各国の聖公会では「王であるキリスト(Christ the King)」や「キリストの支配(Reign of Christ)」等の名称が使われており、現在、改正作業中の新しい祈祷書は「改訂共通聖書日課(Revised Common Lectionary)」に準拠ということですので、どのような名前になるのか、興味深く見守っているところです。
私がなぜ、この主日の名前にこだわっているのかと申しますと、その日の礼拝のインテンション(意向)が散漫になりがちであるからです。当日の特祷には「あなたのみ旨は、王の王、主の主であるみ子にあって、あらゆるものを回復されることにあります」という一節があるように、終末におけるキリストの再臨と天地の回復へと思いを馳せる祈りがささげられています。つまり、この主日によって教会暦の1年はクライマックスを迎え、新たな1年へと進んでいくわけです。そのような1年の締めくくりを十分に味わうことなく、アドベントへと心を向かわせるのは何かもったいないと感じるのです。
また、この主日に収穫感謝が行われる教会も少なくありません。米国では11月の第4木曜日に感謝祭が行われる関係で、それに近い主日が選ばれ、このような習慣が広まったのでありましょう。神さまに収穫を感謝すること自体は推奨されるべきではありますが、「何も米国の国民の祝日に寄せなくても良いのでは?」とも思います。キリスト教国とされる国でも収穫感謝をささげる日は国によって異なりますし、そもそも教会暦では収穫感謝の日付は定められてないのです。更に言えば、近年では「建国以前の入植者たちの困難とそれを助けた先住民」という感謝祭の逸話は否定され、ネイティブアメリカンの人々にとっては「大量虐殺の始まりの日」とみなされていることにも目を向ける必要があるでしょう。
さて、イエスさまと共に十字架に付けられた犯罪人のひとりの「あなたが御国へ行かれるときには、私を思い出してください」という言葉に対し、イエスさまは「あなたは今日私と一緒に楽園にいる」と言われました。私たちがキリストを受け入れた瞬間から神の国は始まっています。そして、私たちの王としてイエスさまが再び来られる時、天と地は再びひとつとなり、み国が完成するのです。
(館山聖アンデレ教会牧師)
(南三原聖ルカ教会管理牧師)
(安房大貫キリスト教会管理牧師)
(鴨川聖フランシス教会管理牧師)
(『横浜教区報』2025年10月号 巻頭言より)
特祷・聖餐式聖書日課
特祷(特定29)
永遠にいます全能の神よ、あなたのみ旨は、王の王、主の主であるみ子にあって、あらゆるものを回復されることにあります。どうかこの世の人々が、み恵みにより、みこの最も慈しみ深い支配のもとで、解放され、また、ともに集められますように、父と聖霊とともに一体であって世々に生き支配しておられる主イエス・キリストによってお願いいたします。アーメン
旧約聖書 エレミヤ書 23:1-6
1「災いだ、わたしの牧場の羊の群れを滅ぼし散らす牧者たちは」と主は言われる。 2それゆえ、イスラエルの神、主はわたしの民を牧する牧者たちについて、こう言われる。「あなたたちは、わたしの羊の群れを散らし、追い払うばかりで、顧みることをしなかった。わたしはあなたたちの悪い行いを罰する」と主は言われる。 3「このわたしが、群れの残った羊を、追いやったあらゆる国々から集め、もとの牧場に帰らせる。群れは子を産み、数を増やす。 4彼らを牧する牧者をわたしは立てる。群れはもはや恐れることも、おびえることもなく、また迷い出ることもない」と主は言われる。 5見よ、このような日が来る、と主は言われる。わたしはダビデのために正しい若枝を起こす。王は治め、栄え/この国に正義と恵みの業を行う。 6彼の代にユダは救われ/イスラエルは安らかに住む。彼の名は、「主は我らの救い」と呼ばれる。
詩編 23編 または 146編 または 46編
23編
1 主はわたしの牧者∥ わたしは乏しいことがない
2 神はわたしを緑の牧場に伏させ∥ 憩いの水辺に伴われる
3 神はわたしの魂を生き返らせ∥ み名のゆえにわたしを正しい道に導かれる
4 たとえ死の陰の谷を歩んでも、わたしは災いを恐れない∥ あなたがわたしとともにおられ、あなたの鞭と杖はわたしを導く
5 あなたは敵の見ている前でわたしのために食卓を整え∥ わたしの頭に油を注ぎ、わたしの杯を満たされる
6 神の恵みと慈しみは、生きている限り、わたしに伴い∥ わたしは永遠に主の家に住む
146編
1 ハレルヤ∥ わたしの魂よ、主をたたえよ
2 命ある限り主をたたえ∥ わたしは生ける限り主をほめ歌う
3 この世の支配者たちに頼ってはならない∥ 救う力がない人の子に頼ってはならない
4 人は息絶えて土に帰り∥ その日、すべての企てはむなしくなる
5 ヤコブの神を助けとし∥ 主に希望をかける人は幸せ
6 神は天と地を造り、海とその中のあらゆるものを形造り∥ とこしえにまことを示された
7 虐げられた人のために審きを行い∥ 飢え渇く人にパンを恵み、捕らわれ人を解放される
8 主は見えない人の目を開き∥ 卑しめられている人を高め、正しい人を愛される
9 主は他国から来ている人を守り∥ 身寄りのない子供とやもめを支え、悪人の企てを砕かれる
10 主はとこしえに治められる∥ シオンの神は世々に、ハレルヤ
46編
1 神はわたしたちの避けどころ、わたしたちの力∥ 悩むときの変わらぬ助け
2 たとえ地が揺らぎ、山が海に崩れ落ち∥ 海がどよめき、しぶきを上げ
3 その勢いに山々が揺れ動いても∥ 決して恐れることはない
4 川が流れ、そのせせらぎは∥ 神の都、いと高き方のみ住まいを喜ばす
5 神がおられる都は揺るがない∥ 神は夜明けにこれを助けられる
6 もろもろの民は騒ぎ立ち、国々は揺らぐ∥ 神が声を出される土地は溶ける
7 番郡の主はわたしたちとともにおられる∥ ヤコブの神はわたしたちの砦
8 主のみ業を仰ぎ見よう∥ 主は地に不思議なみ業を行われた
9 主は地の果てまでも戦いを断ち∥ 弓を折り、槍を砕き、盾を焼かれた
10 「静まれ、わたしを神と知れ∥ わたしはもろもろの民の手でたたえられ、あまねく世界であがめられる」
11 番郡の主は私たちとともにおられる∥ ヤコブの神はわたしたちの砦
使徒書 コロサイの信徒への手紙 1:11-20
11そして、神の栄光の力に従い、あらゆる力によって強められ、どんなことも根気強く耐え忍ぶように。喜びをもって、12光の中にある聖なる者たちの相続分に、あなたがたがあずかれるようにしてくださった御父に感謝するように。13御父は、わたしたちを闇の力から救い出して、その愛する御子の支配下に移してくださいました。14わたしたちは、この御子によって、贖い、すなわち罪の赦しを得ているのです。15御子は、見えない神の姿であり、すべてのものが造られる前に生まれた方です。16天にあるものも地にあるものも、見えるものも見えないものも、王座も主権も、支配も権威も、万物は御子において造られたからです。つまり、万物は御子によって、御子のために造られました。17御子はすべてのものよりも先におられ、すべてのものは御子によって支えられています。18また、御子はその体である教会の頭です。御子は初めの者、死者の中から最初に生まれた方です。こうして、すべてのことにおいて第一の者となられたのです。19神は、御心のままに、満ちあふれるものを余すところなく御子の内に宿らせ、20その十字架の血によって平和を打ち立て、地にあるものであれ、天にあるものであれ、万物をただ御子によって、御自分と和解させられました。
福音書 ルカによる福音書 23:35-43 または 19:29-38
23:35-43
35民衆は立って見つめていた。議員たちも、あざ笑って言った。「他人を救ったのだ。もし神からのメシアで、選ばれた者なら、自分を救うがよい。」36兵士たちもイエスに近寄り、酸いぶどう酒を突きつけながら侮辱して、37言った。「お前がユダヤ人の王なら、自分を救ってみろ。」38イエスの頭の上には、「これはユダヤ人の王」と書いた札も掲げてあった。39十字架にかけられていた犯罪人の一人が、イエスをののしった。「お前はメシアではないか。自分自身と我々を救ってみろ。」40すると、もう一人の方がたしなめた。「お前は神をも恐れないのか、同じ刑罰を受けているのに。41我々は、自分のやったことの報いを受けているのだから、当然だ。しかし、この方は何も悪いことをしていない。」42そして、「イエスよ、あなたの御国においでになるときには、わたしを思い出してください」と言った。43するとイエスは、「はっきり言っておくが、あなたは今日わたしと一緒に楽園にいる」と言われた。
19:29-38
29そして、「オリーブ畑」と呼ばれる山のふもとにあるベトファゲとベタニアに近づいたとき、二人の弟子を使いに出そうとして、30言われた。「向こうの村へ行きなさい。そこに入ると、まだだれも乗ったことのない子ろばのつないであるのが見つかる。それをほどいて、引いて来なさい。31もし、だれかが、『なぜほどくのか』と尋ねたら、『主がお入り用なのです』と言いなさい。」32使いに出された者たちが出かけて行くと、言われたとおりであった。33ろばの子をほどいていると、その持ち主たちが、「なぜ、子ろばをほどくのか」と言った。34二人は、「主がお入り用なのです」と言った。35そして、子ろばをイエスのところに引いて来て、その上に自分の服をかけ、イエスをお乗せした。36イエスが進んで行かれると、人々は自分の服を道に敷いた。37イエスがオリーブ山の下り坂にさしかかられたとき、弟子の群れはこぞって、自分の見たあらゆる奇跡のことで喜び、声高らかに神を賛美し始めた。38「主の名によって来られる方、王に、/祝福があるように。天には平和、/いと高きところには栄光。」
旧約聖書、使徒書、福音書は『聖書 新共同訳』より引用しました。
©︎共同訳聖書実行委員会
Executive Committee of The Common Bible Translation
©︎日本聖書協会
Japan Bible Society, Tokyo 1987,1988
特祷、詩編は『日本聖公会祈祷書』より引用しました。
©︎日本聖公会 1990




