【主教メッセージ】礼拝指針について(2023年5月9日付) 詳細

「婦人よ、あなたの信仰は立派だ」

司祭サムエル北澤 洋
鎌倉聖ミカエル教会牧師

聖霊降臨後第十二主日(特定15)

イエス様は、イスラエルの地を離れ、ティルスとシドンの地方に行かれます。すると、カナンの女が出て来て、「主よ、ダビデの子よ、わたしを憐れんでください。娘が悪霊にひどく苦しめられています」と叫びます。彼女は、ユダヤ人から見れば「異邦人」、つまり外国人でした。

このカナンの女の叫びに、イエス様は初め、何もお答えになりません。そして、「わたしは、イスラエルの家の失われた羊のところにしか遣わされていない」と、彼女の願いを聞き入れることを拒否されます。カナンの女はイエス様の前にひれ伏し、「主よ、どうかお助けください」と、再度懇願します。しかしイエス様は、「子供たちのパンを取って子犬にやってはいけない」と、またもや願いを退けられます。

イエス様は、どうしてこうまで彼女を拒否されるのでしょうか。それは、イエス様が、父なる神様から「イスラエルの失われた羊のところに遣わされ」た羊飼いであったからでしょう。

イスラエルの民は、旧約の時代に、神様に選ばれ救いの約束を与えられた「神の民」です。しかし彼らは、力ある強い民ではなく、小さな弱い民でした。そのような民を神様が救われ、栄光を現すのだとしたら、周りの異邦人は皆、神様の救いのみ業に心打たれ、神様に心を向けるようになるでしょう。それが神様の救いのご計画でした。イエス様も、そのようなご計画に忠実に従っていたからこそ、ここで、イスラエルの民を差し置いて異邦人を救うことを断らざるを得なかったのではないでしょうか。

しかし、カナンの女の信仰は、イエス様の心の向きを変えてしまいます。イエス様の言葉にもめげず、彼女はこう言うのです。「主よ、ごもっともです。しかし、子犬も主人の食卓から落ちるパン屑はいただくのです」と。彼女は、イエス様の言葉にも、神様の救いのご計画にも反対しません。それどころか、むしろそれを肯定し、自分たちは子犬に過ぎないと謙遜な態度を取りながら、しかしなおも熱心に、イエス様に救いを願うのです。彼女の必死さと、まったくゆるがないイエス様に対する信仰に、イエス様は態度を変えられます。そして、「婦人よ、あなたの信仰は立派だ。あなたの願いどおりになるように」と答えられます。この瞬間、彼女の娘の病気は癒されたのでした。

当初はイエス様の中に、イスラエル優先の考え方があったにもかかわらず、確かな信仰を持つ異邦人が現実に目の前に現れたことにより、イエス様の姿勢は大きく変えられることになったのです。

自分とは異質な人とどのように出会い、どのように理解し合い、ともに歩んでいくことができるのか。このことは、私たちにとって普遍的な課題です。まず、出会ってみる。その出会いそのものの中に、私たちの考え方や価値観を大きく変え、より良いものにする可能性の芽があること。今日の福音書は、私たちに、このことを教えてくれているように思います。

(『横浜教区報』2023年8月号巻頭言より)

以下の旧約聖書、使徒書、福音書は『聖書 新共同訳』より引用しました。
©︎共同訳聖書実行委員会
Executive Committee of The Common Bible Translation
©︎日本聖書協会
Japan Bible Society , Tokyo 1987,1988

旧約聖書 イザヤ書 56:1,(2-5),6-7

1主はこう言われる。
正義を守り、恵みの業を行え。
わたしの救いが実現し
わたしの恵みの業が現れるのは間近い。


2いかに幸いなことか、このように行う人
それを固く守る人の子は。
安息日を守り、それを汚すことのない人
悪事に手をつけないように自戒する人は。
3主のもとに集って来た異邦人は言うな
主は御自分の民とわたしを区別される、と。
宦官も、言うな
見よ、わたしは枯れ木にすぎない、と。
4なぜなら、主はこう言われる
宦官が、わたしの安息日を常に守り
わたしの望むことを選び
わたしの契約を固く守るなら
5わたしは彼らのために、とこしえの名を与え
息子、娘を持つにまさる記念の名を
わたしの家、わたしの城壁に刻む。
その名は決して消し去られることがない。


6また、主のもとに集って来た異邦人が
主に仕え、主の名を愛し、その僕となり
安息日を守り、それを汚すことなく
わたしの契約を固く守るなら
7わたしは彼らを聖なるわたしの山に導き
わたしの祈りの家の喜びの祝いに
連なることを許す。
彼らが焼き尽くす献げ物といけにえをささげるなら
わたしの祭壇で、わたしはそれを受け入れる。
わたしの家は、すべての民の祈りの家と呼ばれる。

詩編 67

1 神よ、わたしたちを恵み祝し‖ み顔の光を照らしてください
2 あなたの道が世界に知られ‖ 救いがすべての国に知られるように
3 神よ、諸国の民があなたをたたえ‖ すべての民があなたをたたえるように
4 すべての国は喜び歌え‖ あなたはみ民を正しく審き、地の諸国の民を導かれる
5 神よ、諸国の民があなたをたたえ‖ すべての民があなたをたたえるように
6 地は豊かに実り‖ 神はわたしたちを祝福された
7 神よ、わたしたちを祝福し‖ 地の果てに至るまで神を畏れさせてください

使徒書 ローマの信徒への手紙 11:13-15,29-32

13では、あなたがた異邦人に言います。わたしは異邦人のための使徒であるので、自分の務めを光栄に思います。 14何とかして自分の同胞にねたみを起こさせ、その幾人かでも救いたいのです。 15もし彼らの捨てられることが、世界の和解となるならば、彼らが受け入れられることは、死者の中からの命でなくて何でしょう。

29神の賜物と招きとは取り消されないものなのです。 30あなたがたは、かつては神に不従順でしたが、今は彼らの不従順によって憐れみを受けています。 31それと同じように、彼らも、今はあなたがたが受けた憐れみによって不従順になっていますが、それは、彼ら自身も今憐れみを受けるためなのです。 32神はすべての人を不従順の状態に閉じ込められましたが、それは、すべての人を憐れむためだったのです。

福音書 マタイによる福音書 15:21-28

21イエスはそこをたち、ティルスとシドンの地方に行かれた。 22すると、この地に生まれたカナンの女が出て来て、「主よ、ダビデの子よ、わたしを憐れんでください。娘が悪霊にひどく苦しめられています」と叫んだ。 23しかし、イエスは何もお答えにならなかった。そこで、弟子たちが近寄って来て願った。「この女を追い払ってください。叫びながらついて来ますので。」 24イエスは、「わたしは、イスラエルの家の失われた羊のところにしか遣わされていない」とお答えになった。 25しかし、女は来て、イエスの前にひれ伏し、「主よ、どうかお助けください」と言った。 26イエスが、「子供たちのパンを取って小犬にやってはいけない」とお答えになると、 27女は言った。「主よ、ごもっともです。しかし、小犬も主人の食卓から落ちるパン屑はいただくのです。」 28そこで、イエスはお答えになった。「婦人よ、あなたの信仰は立派だ。あなたの願いどおりになるように。」そのとき、娘の病気はいやされた。

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